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横浜地方裁判所 昭和49年(ワ)783号 判決

原告

宮口実

宮口ふち

右原告ら訴訟代理人

大村武雄

外一名

被告

新菱冷熱工業株式会社

右代表者

加賀美勝

右訴訟代理人

宇田川好敏

被告

殖産住宅相互株式会社

右代表者

前田克己

右訴訟代理人

小林澄男

外二名

主文

被告新菱冷熱工業株式会社は原告らに対し、それぞれ金五〇八万八、八一〇円及びこれに対する昭和四九年三月一七日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告新菱冷熱工業株式会社に対するその余の請求及び被告殖産住宅相互株式会社に対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告新菱冷熱工業株式会社との間においては、原告らに生じた費用を三分し、その一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告殖産住宅相互株式会社の間においては、原告らの負担とする。

この判決は主文第一項及び第三項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告ら

「被告は連帯して原告らに対し、それぞれ金一、一三五万六、七七一円及びこれに対する昭和四九年三月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言。

二、被告ら

「原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  事故の発生

訴外亡宮口一範(事故当時満三年一一ケ月余)は、昭和四九年三月一七日、友人(当時満五年)とともに、横浜市金沢区富岡町殖産住宅谷津坂分譲地内の汚水処理場(以下、本件施設という)内に、その正門から立ち入り、本件施設内の曝気槽に転落して死亡した(以下、本件事故という)。

2  被告らの責任

(一) 本件施設の設置、保存の瑕疵

本件施設は、京浜急行谷津坂駅から徒歩約一分のところに公道に面して設置され、付近を通行する者も多く、住宅密集地の一隅にあつて、幼児らが遊びに入りやすい環境におかれている。

ところで、前記曝気槽は、深さ約四メートル、縦約二〇メートル、横約九メートルのコンクリート造りで、家庭用雑排水が常時満水となつている危険なものであつた。

本件施設内には右のような曝気槽・沈澱槽等の危険な汚水処理槽が存置されているにもかかわらず、本件施設の正門入口は施錠されておらず、かつ、公道に接面してコンクリート塀が設置されているものの、本件施設の西側の土手には塀がなかつたため、正門入口からも土手からも幼児が自由に出入りできる状態に放置され、現に、従来からたびたび子供らが出入していた。しかも、前記汚水処理槽には、転落防止のための設備(たとえば網をかぶせる等)はなされておらず、又本件施設内の平家建の管理室には管理人が常駐していなかつた。

したがつて、本件施設は、幼児が接近することも予想される場所的環境にあり、前記汚水処理槽は、転落事故が発生した場合には生命身体に対する危険が極めて高いものである。しかるに、幼児の本件施設内の立入りを防止するに足る設備を有せず、又転落防止設備を欠く本件施設には、設置又は保存の瑕疵があつたこと明らかであり、本件事故は右瑕疵に因つて発生したものである。

(二) 本件施設の所有、占有関係

本件施設は、被告殖産住宅株式会社(以下、被告殖産住宅という)が所有し、かつその総合的管理をしていたのであるから、本件施設の直接もしくは間接占有者として、又被告新菱冷熱工業株式会社(以下、被告新菱冷熱という)は、被告殖産住宅から本件施設の内部の保守管理を委託されていたものであるから、本件施設の直接占有者として、民法七一七条により、本件事故に因つて死亡した一範及び父母である原告らに対し、因つて生じた損害を賠償する責任がある。

なお、被告殖産住宅が本件施設の間接占有者に過ぎないとしても、民法七一七条一項にいう工作物の「占有者」とは、工作物を事実上支配し、その瑕疵を修補しえて損害の発生を防止しうる関係にある者をいうのであるから、直接占有者のみならず、そのような地位にある間接占有者も含むと解すべきところ、被告殖産住宅は、自ら本件施設の管理費用を分譲住宅者から徴収したり、本件施設の補修につき被告新菱冷熱と協議して補修費用を支出したりして、本件施設の設置、保存に関与している。又、本件施設は被告殖産住宅が分譲した住宅に不可欠の共同施設であつて、右分譲住宅は本件施設によつてその商産品的価値を高められている関係にあるので、被告殖産住宅は本件施設から企業利益を享受している立場にある。されば、同被告も、民法七一七条一項にいう工作物の「占有者」として一次的責任を負担するものである。

3  損害

(一) 亡宮口一範の逸失利益。原告らの相続。

(1) 亡一範の死亡時の年令は、冒頭に述べたとおり満三歳一一ケ月であつたから、将来、少くとも満一八歳から満六三歳まで四五年間稼働できることは明らかである。

昭和四九年賃金センサス第一巻第一表による男子の一ケ月平均賃金一三万三、四〇〇円の一年分給与に年間特別給与金四四万五、九〇〇円を加算し、生活費五割を控除したうえ、さらに一八歳までの養育費を月額二万円として控除し、中間利息をホフマン方式により控除すると、亡一範の逸失利益は一、五一一万三、五四二円となる。

(2) 亡一範の死亡に因る相続人は、同人の父母である原告ら両名であるから、原告ら両名は、亡一範の取得した右逸失利益損害賠償請求権を各二分の一ずつの割合で承継した。

(二) 原告ら自身の損害

(1) 原告らの慰藉料

原告らは本件事故により可愛い盛りの長男である一範を失い多大の精神的苦痛を蒙つたが、右慰藉料としては原告らそれぞれについて三〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用

被告らが任意の賠償支払に応じないので、原告らは、弁護士大村武雄に本件訴訟提起追行を依頼し、第一審判決時において各原告毎に八〇万円宛を支払う旨約した。

4  よつて、原告らは被告らにに対し、民法七一七条に基づき、各自一、一三五万六、七七一円及びこれに対する本件事故の日である昭和四九年三月一七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

〈以下事実省略〉

理由

一事故の発生

1  亡宮口一範が昭和四九年三月一七日本件施設内の汚水処理槽(曝気槽)に転落して死亡したことは、当事者間に争いがない。

2  そして、〈証拠〉を総合すれば、亡一範は、同日午後、谷津坂団地内の自宅二階ベランダで、母原告ふちの傍で遊んでいたが、午後二時二〇分ころ同原告が階下に降りて洗濯物の取込みなどをしていた間に、自宅を抜け出て当時五歳の近所の遊び友だちと一緒に本件施設正門の通用扉を押し開けて本件施設内に立ち入つて、遊んでいるうち、曝気槽に誤つて転落し、午後二時二五分ころ溺死したこと、亡一範は本件事故当時満三歳一一ケ月余の健康な男児であつたことが認められる。

二本件施設の設置、保存の瑕疵の有無について

原告らは、本件事故が本件施設の設置、保存の瑕疵に因る旨主張し、被告らは右瑕疵の存在を否認して抗争するので、まず、本件施設の設置もしくは保存の瑕疵の有無について検討する。

1  本件施設の情況

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  本件施設は、昭和四三年、被告殖産住宅が建設、分譲した谷津坂団地から排出される汚水の処理を目的として建設され、横浜市金沢区富岡町堀口五〇九番地の京浜急行電鉄谷津坂駅から徒歩約一分のところに位置し、曝気槽二槽のほか混合槽、沈澱槽等から成る、ほぼ矩形の汚水処理施設である。

(二)  本件施設の北側は、横浜高等学校の運動場に隣接し、南及び東側はいずれも公道に接している。

そして、本件施設の四囲は、西側を除き高さ約二メートルのコンクリート塀が構築されており(当事者間に争いがない)、西側は高台に面して、急勾配の崖下になつており、崖の底部にはほぼ垂直な約二メートルの高さの石垣が築かれ、右石垣は最も低いところが約一メートルの高さである。

(三)  本件施設の南側に公道に面して正門があり、その正門は幅約四メートル、高さ約二メートルの鉄扉(扉全体を左右に移動することによつて開閉するもの)をもつて開閉し、普段は閉扉して、バキユーム車の出入するときに開かれ、右鉄扉の一部に人の出入を目的とした押戸式の幅六七センチメートル、高さ1.4メートルの通用扉があつて、南京錠で鉄扉の鉄柱との間を連結施錠し、出入を封鎖するようになつている。

ところが右通用扉は、本件事故の二週間くらい前から、こわれた南京錠が金具にぶらさげられたまま放置され、施錠されていなかつた(本件事故当時施錠されていなかつたことは当事者間に争いがない。)。

(四)  前記曝気槽は二槽とも、それぞれ幅四メートル、長さ18.8メートル、深さ四メートルのコンクリート造りのもので(その一部は地中に埋設されている)、常時、汚水でほぼ満水にされ、しかも、汚水は常時動力によつて攪拌されていたが、本件事故当時、右曝気槽には転落を防止する何らの設備もされていなかつた。

又、本件施設内には管理室が設けられていたが、管理人は常駐せず、被告新菱冷熱の従業員が水質管理、機械の調整等の目的で週に一度の割合で訪れるほかは、本件施設は無人の状態におかれていた。

2(一)  右認定事実によれば、本件施設が前記曝気槽を含め全体として一箇の土地の工作物であることは明らかであり、右曝気槽が、前記の構造からして、幼児が本件施設内に立ち入つた場合、これに転落溺死する危険の十分に存するものであつたことも又明らかである。

そして、本件施設は公道に面して存在するのみならず、近くには谷津坂団地があつて、団地居住者の家庭の幼児、児童等の年少者が接近しやすい場所的環境にあつたのであるから、これら年少者が本件施設に立ち入つて前記曝気槽に転落することのないように十分な侵入防止設備を施すことを要し、右侵入防止設備に欠けるところがあれば、本件施設について通常予想される危険を防止するに足る設備を欠く瑕疵あるものというべきである。

しかるところ、本件施設の四囲は、前記の如くコンクリート塀、崖、石垣及び鉄扉で囲繞されていたのであるが、右鉄扉中の前記通用扉は、前認定のように本件事故の二週間ぐらい前から施錠されることなく放置されていたのであるから、幼児といえども容易に右通用扉を押し開けて本件施設に立ち入つて、満水の前記曝気槽に接近することが可能な状態にあつたのである。さすれば、本件施設には、右の点において、保存上の瑕疵があつたものというべきである。〈証拠判断省略〉

(二)  被告らは、本件施設が一般公衆との関わりのない施設であつて、その性質上一般人の出入の考えられないこと並びにコンクリート塀及び鉄扉の存在は、一般公衆に対して本件施設への立入りを禁止する旨を明示する効果をもつことから、本件施設が立入防止設備において社会通念上欠けるところはない旨主張するが、本件施設を囲む設備の状況は、事理を弁識する能力を備えた者に対して、そのような意味と効果を持ちうること被告ら主張のとおりであるとしても、そのような能力を備えておらず、如何なる場所にも好奇心による遊び場を見つける満三、四歳程度の幼児に対しては、そのような意味と効果の認識及びその認識故に立ち入りを中止することを期待することはできないものというべきであるから、社会通念上本件施設を囲む設備が表示する立入禁止の警告磯能や制止機能を、前記幼児などに対しても当てはめるよう要請することは、社会通念の具体的適用を誤ることに帰するので、本件施設に保存の瑕疵がないと、所論のごとくたやすく断じ去ることはできない。〈証拠判断省略〉

三本件事故が本件施設の前記保存上の瑕疵に因るものであることは既に説示したところから明らかである。

そこで、進んで、本件事故に関する被告らの責任の有無について、検討する。

1  被告新菱冷熱が同殖産住宅から委託されて本件施設の保守、管理にあたつていたことは、当事者間に争いがないから、被告新菱冷熱は本施設の直接占有者というべきところ、同被告が本件事故に因る損害の発生を防止するに必要な注意を尽くしていたことを認めるに足る証拠がなく、かえつて、前認定のとおり錠のこわれたままに通用扉の施錠を怠つて幼児の立ち入りを招いたのであるから、同被告には、民法七一七条一項本文により、本件事故に因つて生じた損害を賠償する責任がある。

2  被告殖産住宅が本件施設の所有者であり、本件施設の管理を被告新菱冷熱に委託して行なわせていたことは、当事者間に争いがないから、被告殖産住宅は、本件施設を被告新菱冷熱の直接占有を通じて間接に占有している者というべきである。

ところで、民法七一七条一項にいう工作物の「占有者」には、文言上何らの限定もないから、直接占有者のみならず、間接占有者も含まれるものと解すべきであるが(最高裁判所昭和二九年(オ)第八四八号同三一年一二月一八日判決、民集一〇巻一二号一、五五九頁参照)、同条項が、瑕疵ある工作物の「占有者」を損害賠償責任の第一次的負担者とし、右「占有者」が損害発生を防止するに必要な注意をなしたとして免責されるときにのみ、「所有者」が第二次的に損害賠償責任を負担するとしているのは、危険責任の見地に立ちつつ、危険な工作物に対する支配関係の強弱によつて、その責任負担の順序を定めようとする趣旨と解することができるのである。しかるときは、間接占有者は、直接占有者の占有支配を通じて観念的に工作物を支配するにすぎないものであるから、間接占有者は、直接占有者が免責されるときにのみ、所有者であるときは所有者として、所有者以外の間接占有者であるときは、占有者に準じて、第二次的に責任を負担するものと解するのが相当である。

さすれば、前認定のごとく本件施設の直接占有者たる被告新菱冷熱に免責事由のない本件においては、被告殖産住宅には、民法七一七条一項所定の「占有者」としてはもとより、「所有者」としても、本件事故による損害を賠償する責任はない。

なお、原告らは、被告殖産住宅も又本件施設の直接占有者である旨主張するのであるが、〈証拠〉によれば、被告殖産住宅は、本件施設中の建物、外柵、土木構造物等の工作物の修理を含む本件施設の管理一切を被告新菱冷熱に委託し、現に被告新菱冷熱のみが専らこれを管理していたものと認められるので、被告殖産住宅をもつて本件施設を事実上支配する直接占有者とすることは到底できない。もつとも、〈証拠〉によれば、被告殖産住宅は、本件事故後被告新菱冷熱の申入れで、自己の費用で前記曝気槽その他の施設を鉄骨及び金網で覆う転落防止の設備をしたことが認められるけれども、右事実は、被告殖産住宅が本件施設の所有者として施設の改善のため出捐したに他ならず、毫も本件施設を直接占有していたことを裏付けるものではない。

他に原告らの右主張を認めるに足る証拠はない。

四被告新菱冷熱の損害賠償責任額

1  亡一範の逸失利益

(一)  前記のとおり、亡一範は死亡当時三歳一一ケ月余の健康な男児であつたが、幼児の死亡の場合の逸失利益の算定は、その性質上控え目になすべきものであるから、稼働期間を一八歳から六〇歳までとし、右期間を通ずる収入は昭和四九年度賃金センサスの全産業、企業規模、旧中、新高卒の男子労働者の平均賃金として計算することにする。

右によると、年間平均賃金は、毎月決まつて支給される現金給与額一二万六、七〇〇円の一二ケ月分と年間賞与その他の特別給与額四三万二、六〇〇円との合計一九五万三、〇〇〇円となり、右収入を得るために控除すべき生活費を右期間を通じて五割として計算すると、年間喪失純利益は九七万六、五〇〇円となる。

そして、本件のように死亡当時満三歳一一ケ月余の幼児で、その就労可能年数が四二年にも及ぶ場合には、逸失利益算定の方式としては、ライプニツツ方式によるのが相当であるので、同方式により年五分の複利年金現価係数8.3809(稼働終了時までの五七年係数と稼働開始時までの一五年係数の差)を右年間喪失純利益に乗じて中間利益を控除した現価を算定すると、死亡時における逸失利益は八一八万三、九四八円となる。

(二)  そして、〈証拠〉によれば、原告らが亡一範の両親であることが認められるから、同人の死亡に因る相続に因り、原告らはそれぞれ、右逸失利益の各二分の一にあたる四〇九万二、九七四円の損害賠償請求権を承継したこととなる。

(三)  ところで、扶養権利者の死亡に基づく逸失利益を扶養義務者が請求する場合には、右権利者の死亡時から稼働開始に至るまでの養育費は、同人が稼働能力は取得するための必要経費と称せられるのみならず、同人が生存していたとすれば右義務者において当然に負担しなければならないものであることを考えれば、稼働開始後の生活費同様これを逸失利益から控除するのが、損害賠償法を貫ぬく衡平の原理に鑑みて妥当と解されるのである。しかるときは、亡一範の死亡時から稼働開始時の満一八歳までの養育費は、月額一万五、〇〇〇円(年間一八万円)とみるのが相当であるので、ライプニツツ方式による年五分の複利年金現価係数10.3796(養育期間一五年の係数)を乗じて中間利息を控除した死亡時の現価一八六万八、三二八円は原告ら両名の相続した前記逸失利益より二分の一宛控除すると、その残額は各三一五万八、八一〇円となる。

(四)  過失相殺

被告新菱冷熱は、本件事故に関しては原告らにも過失があつたとして、過失相殺を主張するが、本件訴訟にあらわれた全証拠をもつてしても、原告らにおいて、亡一範の監護義務を尽くすに欠けるところがあつたとすべき事実は認められない。すなわち、本件事故は、一の(2)に認めたとおり、原告宮口ふちが洗濯物を取入れるために、一範の傍から離れたわずかの間に生じたものであつて、その点について原告ら、殊に原告ふちに一範の監護に関して過失があつたものということはできない。又、〈証拠〉によれば、本件施設は、子供が出入りするにしても、そんなに多くの子供がしばしば出入して遊び場としていたような情況にはなかつたこと、亡一範が本件施設に立ち入つたのは本件事故当日が初めてのことであつたことが、それぞれ窺われるうえ、本件施設の公道に面した部分は高いコンクリート塀で囲繞されていたこと前認定のとおりであるから、本件施設の関係者でもない原告らが、本件施設の危険性を認識していなかつたとしても、そして、その故に亡一範に対して本件施設への立ち入りを禁止することがなかつたとしても、無理からぬものがあつたということができるし、他に、原告らについて、平素の一範の監護に欠けるところのあつたことを認めるに足る証拠はない。

2  原告ら自身の損害

(一)  慰藉料

〈証拠〉及び前認定の諸般の事情を考慮すれば、亡一範は、原告らの三子のうち男の子としては一人だけで、しかも可愛いい盛りであり、本件事故によりこの子を失つた原告ら両親の精神的苦痛は察するに余りあるところであり、原告らの右精神的損害に対する慰藉料としては、原告ら各自につきそれぞれ一五〇万円宛、合計三〇〇万円とするのが相当である。

(二)  弁護士費用

〈証拠〉によれば、被告新菱冷熱は、原告らの損害賠償金の支払請求に応じなかつたため、原告らは本件訴訟の提起追行は弁護士大村武雄に委任していることが認められるところ、本件訴訟の内容、経過、認容額等を斟酌すれば、原告らが訴訟代理人に支払う弁護士費用のうち、被告新菱冷熱に対して損害賠償を請求することのできるものは、各自四〇万円、合計八〇万円と認めるのが相当である。

3  以上を合計すれば、原告ら各自は、逸失利益損害三一五万八、八一〇円、慰藉料一五〇万円、弁護士費用四〇万円の合計五〇五万八、八一〇円の損害賠償請求権を被告新菱冷熱に対して有するものである。

五よつて、原告らの被告新菱冷熱に対する本訴請求は、原告ら各自が五〇八万八、八一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四九年三月一七日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余の請求は失当として棄却し、原告らの被告殖産住宅に対する本訴請求はいずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴行訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(立岡安正 中村盛雄 長門栄吉)

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